【大久保登喜子の 今日も馬日和】〜Tokiko’s Horsy Journal〜 東京2020を目指す馬術選手たち

大久保登喜子 TOKIKO OKUBO

長年にわたって、「乗馬ライフ」「馬術情報」などの編集・制作に携わり、国内外の馬術競技会や、馬のイベント、選手、馬に携わる人たちを取材、交流を続けている国際馬術ジャーナリスト。著書に「ヨーロッパ夢の競馬場 ぜ〜んぶ馬の話」、翻訳書に「クラウス・フェルディナンドの触れ合い調教法 馬と踊ろう」、「ホースライディングマニュアル」などがある。

 

東京2020を目指す馬術選手たち

ヨーロッパから一時帰国した選手に尋ねる——

 

まもなく2020年のオリンピックイヤーの年明けとなる。オリンピックの会場は東京だが、目指してしのぎを削っている選手たちは全員ヨーロッパで活動している。ヨーロッパでは優れたトレーナーに付き、毎週のようにレベルの高い競技会に出場して、トップ選手と競い合うチャンスがあるからだ。
実際に代表選手が決まるのは2020年6月過ぎだが、12月、五輪に出場したいと手を挙げている選手たちがメディカルチェックを受けるために帰国した。そこで、彼らのオリンピックにかける思い、そして現況を尋ねた。
(2019年12月13日、ナショナルトレーニングセンターで)

 
 

佐藤英賢 
(1986年1月8日生 33歳/ポール・ショッケメーレ厩舎所属、五輪出場基準をクリア)
「競技の現場から退いて5年のブランクがあるのですが、日本チームのゼネラルマネージャー、ポール・ショッケメーレさんから、一度遊びにおいで、と言われて旅行みたいな気分でドイツの厩舎に行って、そのまま2019年の1月から研修しています。現場に戻った動機といえば、日本でオリンピックが開かれるからです。たとえ東京でオリンピックが開かれなくても戻っていたような気がします。北京五輪に出場して、ベルギーのステフェックス厩舎に所属していたときはFEI世界ランキングも50位以内までいったのですが、今は0からの再スタートでやっと223位。どこまで取り戻せるか、です。
ドイツでは毎朝起きては馬に乗る暮らしで、8時から5時まで間に1時間ぐらい昼食で休憩して1日10頭ぐらい乗っています。
 日本では馬術はまだマイナーなスポーツですが、東京でどのようなパフォーマンスを見せられるか、毎日、目標をオリンピックにおいて頑張っています。世界ランキングを挙げていくことも目標です」


佐藤英賢選手 ©Tokiko Okubo
  

福島大輔 
(1977年9月20日生 42歳/ Star Horses所属、リオ五輪出場、五輪出場基準をクリア)
「馬は心の優しい動物です。こちらがイライラすると察しますし、落ち込んでいると普段攻撃的な馬でも顔を擦り寄せてきたりします。これまで何万頭という馬と関わってきたけれど、馬と心を一つにして、『こっちへ行こうよ!』という気持ちを『わかったよ』と馬に理解してもらうことの繰り返しです。オリンピックに向けては大きな試合の場数を踏むことが大事だと思います。今、ドイツのショッケメーレ厩舎という恵まれた環境の中にいて、コントロールしてもらい、アドバイスを受けながら研修しています。主戦馬は日馬連所有のカルーソJRA(セン馬、12歳)で、勇敢な馬で心強いです。まず、日本チームのトップ3人馬に選ばれねばという厳しい戦いが待っており、選ばれるように、本番に向けピークに持っていけるように、人馬とも怪我のないよう頑張っていきます」


福島大輔選手 ©Tokiko Okubo
  

齋藤功貴 
(1989年9月16日生、33歳 北総乗馬クラブ所属、リオ五輪補欠、五輪出場基準をクリア)
「シドニー、アテネのオリンピックに出場した林忠義が叔父にあたり憧れています。叔父にはいつも、『相棒の馬を思いやれ』と言われながら練習していました。リオを目指してポール・ショッケメーレ厩舎に2014年からいますが、リオは補欠で、現地まで行ったのに出場できず残念悔しかったです。その悔しさをバネとして、今度こそは代表になりたいと頑張っています。
叔父の乗馬スタイルを手本として乗ってきましたが、ドイツにきてからはうまい選手がたくさんいるので、乗り方もずいぶん変わりました。同じ厩舎に佐藤英賢、福島大輔という経験豊かな選手がいるので、力強いです。
馬上でのバランスをとるためにもう少し筋肉をつけてウエートを増やそうと、ジムへ行ってスポーツトレーニングを受けています。
障害馬術は迫力があり、1落下すれば減点4というようにシンプルで分かりやすいから、五輪を機に日本の馬術ファンを増やしたいです」


齋藤功貴選手 ©Tokiko Okubo
  

高田崚史 
(1992年11月14日生、27歳 小山乗馬クラブ所属、五輪出場基準クリア)
「2017年春大学(一橋大学商学部)を卒業し、オランダのヴィム・シュローダー厩舎に本拠地をおいて、本格的に試合に出ています。ヨーロッパにいればオランダ、ドイツ、フランスとどこへでも行けるし、試合の数やレベルが日本とは違います。去年あたりから結果が出始めました。本当は2013年に東京オリンピック開催が決まったときから五輪出場が夢でした。ゆくゆくは父の会社を継がねばならないのですが、今は結果を出して徐々に親に認めてもらっています。普通、乗馬クラブ経営者の子供でないと馬術を続けるのは難しいのですが、別のビジネスで稼いだお金で馬術を続けることもありでしょう。中学の夏休みに体験乗馬に行ってそのままハマってしまった僕のような環境の人でも馬術で活躍できる社会を作りたいと願っています」


高田陵史選手 ©Tokiko Okubo
  

<馬場馬術>
佐渡一毅 
(1985年2月20日生、34歳 JRA馬事公苑所属 アジア大会団体金、五輪出場基準クリア)
「東京オリンピックは勤務先のJRA馬事公苑が会場なので、是非とも出場したいです。2014年10月からオランダで研修を始め、2年半ほど前からイムケ・シェレケンス-バーテルズの厩舎にいます。5歳のときに乗馬クラブに入ってそのまま続け、大学卒業後JRAに入会。2年目から内国産乗用馬で結果を出すようになり、馬場馬術を専門にやっています。日本にいるときオリンピックは夢の舞台過ぎましたが、5年前にオランダにきてからはオリンピックが現実の目標となりました。ヨーロッパの選手やトレーナーと触れ合って柔軟な気持ちで馬術に向かえるようになってよかったです。今、出場基準をクリアしたバローロ号とルードヴィッヒ号の2頭に乗っていますが、性格が正反対の馬です。得意な課目は伸長速歩、歩毎の踏歩変換、不得意な課目はピアッフェ。これも克服していきたいと思います。これまでの最高得点はグランプリで68%、自由演技で71%を出しています」


佐渡一毅選手 ©Tokiko Okubo
  

黒木茜 
(1978年8月13日生、41歳 ベンジャミン・ウェルンドル厩舎で研修中 リオ出場、アジア大会団体金メダル)
「まだ選考も始まっていないので、選考していただけるよう気を引き締めて向かいます。五輪出場資格をクリアしていないので、1月から2カ月ぐらいフロリダのウエリントンに滞在して競技会に出場し、資格を得たいと考えています。最近、ツィンダーウィンドという15歳のオランダ産種牡馬を購入しました。スウェーデンチームの馬で、小柄でエンジンがよく、グランプリを何度も経験しているので、馬が先生と言っても過言ではありません。エネルギッシュな演技を披露できるでしょう。一番大切なことは馬とのコミュニケーション。馬のモチベーションをキープしてあげること、ハッピーにしてあげることを第一にしていきます。人馬共に毎日を大事に、怪我なく過ごしたいと念じています。リオ・オリンピックは人生で一番幸せな日々でした。あの経験を生かしたいです」


黒木茜選手 ©Tokiko Okubo